187335 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

シンプル・ライフ

シンプル・ライフ

知られざる「Jホラー」

 
.★..... .★.....      .★..... .★.....
.★.....      .★.....  .★.....      .★.....
.★.....       .★.....       .★.....
.★.....              .★.....
 知られざるJホラー 
.★.....       .★.....
.★.....  .★.....
.★.....
 あるホラー小説の大筋を紹介する。タイトルは挙げないけど、完全に内容を明かすので、自分が現在読んでいる本の事だと思ったら、内容がわかってしまうので気をつけて欲しい。
 冒頭、南米を探検している調査チームが紹介される。
 チームの面々が書かれた後、その足取りが語られ、遭難する模様が描かれる。
 食料を失ったメンバーの前に、笑う猿が現れる。当然、彼等は、これ幸いと猿を捕らえていただくのだが、以後、現地の部族から接触を避けられるようになる。
 帰国後、次々とメンバーが変死。いずれも笑いを浮かべていたという。
 メンバーの一人の恋人である主人公の女性が事件を調べ始めると、南米の部族に伝わる言い伝えから、謎の寄生虫の存在が見えてくる。
 その虫は、宿主の体内で大量繁殖しつつ、脳内で作用して快楽物質を異常分泌させる。
 結果、被害者は多幸感に包まれ、恐怖を最大の快楽と感じるようになる。危険すぎる躁病といったところか。
 そうなると、どうなるか? 高所恐怖症の物はその恐れを嗜好するため、転落死する。先端恐怖症なら、自らを刺し殺してしまう。これが連続自殺事件の真相だ。
 自らを捕食者であるヒトの前に差し出した猿が、感染源だったのだ。
 ここでプロットは一転して、寄生虫を広めている隊員への追跡に物語は移行する。虫の多幸感によって人々を幸せにしようとするその男を、主人公は追い詰め、計画を妨害する。
 のだが、ここで物語は完全にサブ・ジャンルを超過するのだ。
 ここまでは、医療ホラーのような体裁を取っていたのだが、一気にアクション・ホラーになってしまう。寄生された人々が、理由はよく分からないが、手足が増殖したクリーチャーになって出てくる。普通、医療小説にモンスターは出ない。
 ンアー! と仰け反ること請け合いだ。もちろん、作者は確信犯だろう。当然、最後は炎上シーンあり。 
 これって、パラサイト・イブあたりからの流れだろうか? あれもまた、最後の最後で突然モンスターが発生、超能力で大暴れの挙句、お約束の炎上ラストだ。
 それまでの科学的な流れは全てハッタリ、昔ながらのお約束でまとめるこの手段こそ、ホラーと言うサブ・カルチャー仲間向けの文脈が明確なジャンルでこそ許された技だろう。
 だが、逆に思うのだ。下手すると、あらゆるジャンルはホラーになりかねないのではないだろうか?
 最近読んだ、「症例A」という小説がある。「精神障害の、回復の軌跡を描いた癒しの感動作!」的な匂いのこの作品、あらすじを紹介しよう。
 主人公は、精神科の入院病棟に新任してきた若い医師。彼はそこで、患者の少女に関心を抱くようになる。
 彼女は治療期間が長いにもかかわらず、正確な診断が下せない難しい患者だ。しかも、専任の担当医が自殺している。
 主人公は、彼女が境界性人格障害で、周りの人々を陥れ、傷つける事でしか自我を見出せない危険な患者だと推測する。
 自分がやった悪事を、断固として認めない彼女。私的な経験だが、人格障害者って本当にそうなのだ。ぼくはぼくなりに、サイコ少女たちの権威だ。
 高まる圧の中、意外な真実が明かされる。実は、少女は多重人格で、それぞれの人格が別の人格障害を持つ多層的な患者だったのだ!
 なーるほど、症状が特定できない訳だネ。ってンアー。なんだそれー。
 サイコホラーというより、空想科学小説になったところで物語は終る。回復とかは別にしない。
 さて、最後にもう一遍、ぼくの好きなある文学小説のあらすじ。
 主人公は、昔の親友からの謎の手紙を受け取り、謎の鍵を解く「羊」を探すことになる。
 その過程で、同じく羊を探す右翼の大物と脅迫され、状況は深刻になってゆく。羊というのはどうも、何らかの精神的な力の事らしく、その大いなる意思によって、戦争さえ起きうる物なのだという。恐らく、文学的なメタファなのだろう。
 最終的に、内省的な、羊をめぐる冒険の結果、主人公は閉ざされた雪山のロッジで親友の痕跡を見つける。
 親友が暮らしていたそのロッジで待っていると、やがて親友が帰ってくる。
 彼は、自分が羊に囚われたこと、そうなるともう、大きな力からの干渉を受けざるを得ない事、そして、それが、邪悪な力である事を語る。
 恐らく、文学的なメタファだろう。難しくて分からないが、何か、衆愚における権力のような物を感じる。
 最終的に、親友は、自分の中の羊が眠っている間に、首をくくって自殺する。
「これでよかったんだよ」親友は寂しく挨拶して去ってゆく。「ただ、君に見つけてほしかった」
 社会の冷酷さ、無常さに対する、美しいアンチテーゼだ。
 だが、しかし。これって読み方によると……。
 あ、やっぱ炎上しないので文学。

bbs


© Rakuten Group, Inc.